ネイチャーポジティブの実現と企業の自然関連財務情報開示
現在、産業界が主導して「ネイチャーポジティブ経済」を目指す動きが高まっています。この動きはどの様な背景に基づいているのでしょうか。
我々人間の活動は、企業活動を含め自然の寄与に依存しています。自然の寄与は生物資本とも呼ばれ、生物多様性もこの中に含まれます。
例えば、熱帯雨林や海洋中の藻類やプランクトンなどの植物といった海域と陸域の生態系が、人類が排出する炭素の唯一の吸収源であり、その量が年間56 億トン、世界全体の人為的排出量の約60%にのぼることからも、その恩恵は簡単に理解できることでしょう。
社会と経済の存続と繁栄は自然と生物多様性の健全性と回復力にかかっていると言っても過言ではなく、自然の寄与の衰退、つまり自然資本の衰退は、我々の社会活動にとって重大なリスクとなります。
しかしながら、近年、自然は急速に減少し、生物多様性の状況は、1970年から2018年の間におよそ68%が喪失するなど世界規模でかつてない速さで減少しました。この結果、経済の基盤となっている重要な生態系サービスが減少し、現在では生物多様性の減少は気候変動に並ぶ深刻な危機であるという認識を持って捉えられています。
このような状況への対応として、「生物多様性の損失を止め、反転させる緊急の行動をとる」ネイチャーポジティブの考え方が重要視した経済活動が重要視されているのです。
このネイチャーポジティブ経済の実現を後押しする形で、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が2021年6月に発足しました。
TNFDは、企業が情報開示することにより自らの自然関連課題を理解し、自然にとってプラスになる方向に資本を誘導すること、そして、そのことによりリスクと資本を効率的に配分し自然資本を回復させ、市場機能を安定化することを目的としています。