PAS 2080
インフラストラクチャの炭素排出を管理する世界初の規格

• 政府の委託を受けたグリーン・コンストラクション委員会のレビューによると、英国の炭素排出量の50％以上をインフラストラクチャ部門が占めています。
• このレビューでは、バリューチェーン全体にわたって全業界における炭素排出量を削減するために、 新しいカーボンマネジメント仕様の策定を行うことを推奨しています。
• BSIの主導のもと、各業界のステークホルダーからなるステアリンググループは、明確で一貫性のあるフレームワークを提供するため、ファストトラック規格であるPAS 2080を開発しました。
• PAS 2080は、インフラストラクチャにおける炭素の管理に関する世界初の規格となり、企業の炭素削減とコスト削減に極めて重要な役割を果たしています。

インフラ部門の炭素排出量の多さとそれに伴うコストへの懸念の高まりを受けて、英国財務省とビジネス・イノベーション・技能省（現ビジネス・エネルギー・産業戦略省（BEIS））は、「インフラ ・カーボン・レビュー」を委託しました。このレビューでは、英国の炭素排出量の50％以上をインフラストラクチャ部門が占めていることが明らかにされました。

二酸化炭素の削減は、環境にとって不可欠ですが、コスト削減にもつながります。インフラ・プロジェクトにおけるカーボンフットプリントの削減は、原材料、エネルギー、労働力の効率化させ、資本コストと運用コストを削減し、あらゆる段階でコスト削減を実現します。

しかし、業界は全ての工程における炭素排出を評価・管理するための一貫したアプローチを欠いていました。そこで、このレビューの具体的な提言の1つとして、この機会を現実させるために必要なガイダンスを提供する新しいカーボンマネジメントの仕様書の開発でした。

「PAS 2080の真の威力は、それが共通のフレームワークであることだけでなく、製品サプライヤー、請負業者、設計者、資産所有者のすべてが、このフレームワークの検証を受けることができるということです。バリューチェーン全体が同じ方法で運用されることで、より大きな効果が期待できます。 マジックは低炭素化ソリューションという形でマジックが起きます。」
David Riley, Head of Carbon Neutrality, Anglian Water

インフラセクターの課題は非常に大きいものでした。2008年の気候変動法に伴い、プロジェクトのライフサイクル全体で約75%の削減を達成する必要があったのです[1]。 つまり、新しい規格はバリューチェーン全体をカバーするフレームワークを提供する必要があり、よりインテリジェントな設計、建設、およびそれらの使用を通して、炭素とコストの両方を削減する必要があるのです。また、インフラを提供する際の重要なポイントにおいて、一貫して透明性のある炭素測定が行われるようにする必要があります。

グリーン・コンストラクション委員会のインフラ作業部会がスポンサーとなり、PAS 2080はMott MacDonald社やArup社が参加するステアリンググループによって開発され、BSIが進行役を務めまし た。

このグループには、資産所有者、サプライヤー、学識経験者など、さまざまな部門やバリューチェーンのから実務家や専門家が参加しています。さらに、この文書が目的にかなっておりユーザーに理解されることを確認するために、テクニカルグループも参加しました。

Anglian Water社のカーボン・ニュートラル責任者であるDavid Rileyは、ステアリンググループの一員でした。「数多くの重要な組織から代表者が集まり、多様な意見が交わされたことは、非常に意義深いことでした。」と述べます。「このようなグループにおいては、時に熱くなることもありますが、最終的には誰もがセクター全体の問題を理解し、最善の方法で合意することができます。また、この方法はPASに信頼性を与え、 人々がPASを信用するようになるのです。この実績ある開発プロセスの最後に、グループは合意に達し、PAS 2080 Carbon management in infrastructureが、フレームワークの原則に基づいた 行動の実践例を示すガイダンス文書とともに発行されました。

PAS 2080は、以下をカバーします

• 適切なCO2削減目標の設定
• 炭素削減のパフォーマンスを評価するためのベースラインの決定
• 信頼できる炭素排出量の定量化と報告のための指標（主要業績評価指標など）の確立
• 炭素排出量の定量化手法の選択（バウンダリーやカットオフルールの定義も含む）
• パフォーマンスを可視化するための適切な業務段階での報告
• カーボンマネジメントとパフォーマンスの継続的改善

PAS 2080は、バリューチェーンのすべての部分が適用できる共通のフレームワークを提供し、プロジェクト全体を通して炭素使用量とコストの両方を削減することを支援します。

例えば、Anglian Water社は、David Riley氏がステアリンググループに参加しPASの手法に従うことで、キャピタルカーボンにおいて61％削減をし、設備投資においては22％削減を達成しました。 また、グリーンボンドを発行した最初の企業にもなりました。「審査員は、我々がPAS 2080を導入していることで、我々が取り組んでいることが明確になり、確信が持てたとはっきりと言ってくれました。」とDavid Riley氏は言います。

HS2社は、PAS 2080の原則を適用することで、大規模輸送プロジェクトの二酸化炭素排出量を最小限に抑えています。カーボンマネージャーのMark Fenton氏は、その一例を挙げています。「私たちの設計者は、Old Oak Common駅屋根の建設に使用する構造用鋼材を27％削減することに成功しました。これは2,700トンの 炭素と7百万ポンドのコスト削減に相当します。」
重要なことは、PAS 2080は、炭素使用のライフサイクル全体を管理することで、組織間が協力的かつより効果的に活動することを奨励するものでもあるということです。 Mark Fenton氏は、以下のように述べています。

「このシステムをTier1の請負業者に導入したことで共通のフレームワークの中で作業できるようになりました。つまり、同じ言葉で話し、同じプロセスを開発し、それらがうまく機能しているということです。」
「PASの素晴らしいところは、策定までの時間が短いということです。今回の場合、それはインフラにおける炭素削減という重要な目標を迅速に達成するために非常に重要なことです。」
Alison Walker, Climate Change Manager at HS2
（PASを立ち上げたグループの一員であり、ステアリンググループのメンバーでもあります）

この規格は、組織が以下を行うことを支援します 。

• 明確さを高める：PASは、優れたカーボンマネジメントとは何か、二酸化炭素削減のための主な要因を定義しており、中でもリーダーシップが最も重要であるとしています。
• 一貫性を保つ： PASに従うことで、デリバリーにおける重要なポイントにおいて二酸化炭素が一貫して且つ透明性をもって定量化され、そのデータをサプライチェーン全体で共有することが保証されます。
• 二酸化炭素排出量とコストを削減する：PASが推進する協働作業により、組織はプロセスを調整し、サプライチェーンを通じて充実したサービスソリューションを提供し 、その結果コストを削減することができます 。
• 入札を勝ち取る：コンプライアンスを実証することで、二酸化炭素削減へのコミットメントを確立し、評判を高め、英国内外の競合他社を一歩引き離すことができます。
• イノベーションを起こす：PAS 2080は、採用企業に対してより低炭素なソリューションへの挑戦、推進、および革新を確実に行うよう求めることでイノベーションを奨励します。
• 気候変動に対処する：英国の二酸化炭素排出量の約半分はインフラストラクチャが占めているため、PAS 2080への準拠は英国が二酸化炭素削減目標を達成するのに役立ちます。

David Riley氏は、カーボン関連やサステナブル関連のアワードの審査委員を務めています。「受賞作品の多くが、PAS 2080をツールとして参照しているのは興味深いことです。」と同氏は指摘します。「また、環境庁やOfwatなどの機関からも、PASに関する前向きな話が聞かれるようになりました。」

David Riley氏は以下のように語ります。「PAS 2080の真の威力は、共通のフレームワークであるだけでなく、製品のサプライヤー、請負業者、設計者、資産所有者、そのすべてにおいて検証が可能であるということです。」 「バリューチェーン全体が同じように機能するようになれば、低炭素化ソリューションを実現するためのマジックが起こるのです。」

PAS 2080の検証を行った組織は、以下のことが可能になります。

• 炭素削減へのコミットメントを示す
• 炭素削減量の測定とモニタリング
• サプライチェーン全体のプロジェクトに協力する
• 入札時の競争力強化

PAS 2080の良い事例として、Skanska UK社が挙げられます。この建設会社は、政府の炭素削減目標達成の一翼を担い、業界全体の炭素排出量削減をリードしたいと考えていました。「炭素排出量の削減はコスト削減につながり、ひいては効率と効果を高めます。」と、上級副社長のThomas Faulkner氏は述べます。「そして、お客様により良いサービスをご提供し、株主の皆様にはより良い利益とリターンを提供することができます。つまり、Win-Winの関係を作ることができるのです。」

Skanska社のカーボン・マネージャーであるConor McCone氏は、次のように付け加えます。「PAS 2080は、業務効率を向上させ、統制を取りながらうまくコラボレーションできるようになるため、我々のビジネスにとって非常に重要です」。環境担当ディレクターのAdam Crossley氏もこれに同意しています。「PAS 2080は、バリューチェーン全体が炭素問題に取り組むための共通の枠組みとガイダンスを提供します。我々が低炭素未来を目指すのであれば、クライアント、設計者、請負業者、サプライヤーが協力することが 不可欠です。"

このPAS規格は、グリーンコンストラクション委員会から委託されたものです。グリーンコンストラクション委員会は、英国政府の低炭素建設アクションプランで定められた行動を推進するために、2012年に設立されまし た。理事会には、政府の代表者と業界のシニアリーダーが参加しています。アクションプランにおけるリーダーシップを発揮するだけでなく、グリーンコンストラクションに関する新しい問題や困難な問題に関して政府省庁のご意見番を務め、グリーンコンストラ クションに関する政策の影響や実施について助言を行います。

最後に、PAS 2080の策定にステアリンググループのメンバーとして関わった以下の団体に謝意を表します。

Balfour Beatty plc, London Underground, BRE Group, Mott McDonald, Cambridge University, MWH Global, CEMEX UK, National Grid, Clancy Group, Responsible-Solutions, Construction Products Association, SKANSKA UK plc, Costain Group plc, Tata Steel, Department for Business, Innovation and Skills (BIS), Transport for London, HM Treasury（英国財務省）。

PAS 2080は現在改訂中で、2022年に発行される予定です。改訂版では、ユーザーの経験から得られた知見を取り入れ、いくつかの条項をさらに明確にし、バリューチェーンがネットゼロに向けて加速することを支援します。また、ライフサイクル全体での脱炭素化および炭素隔離のためのシステム思考や、関連する自然ベースのソリューションに関する追加ガイダンスが含まれる予定です。