事例紹介:PAS 3100規格策定

『自動車部品に対する概念を変える  -「再生」から「再製」へ-』

PAS 3100:2014 -公開仕様書 再製自動車部品 – 工程管理システムのための仕様
株式会社アーネスト様

PAS 3100cover

2014年11月、PAS 3100:2014が発行されました。
「再製自動車部品 –工程管理システムのための仕様」と題した本PASは、自動車部品の再製のための工程管理システムの要件をカバーしており、純正品と同様の基準でリマニファクチャー(再製)する客観的に証明可能な工程を明確にすることを目的としています。

自動車部品の再製造は、環境を保護する努力に寄与する実用的な手段として地球規模で急速に成長しており、適切な部品の再製は廃棄物とCO2排出の削減を効果的に促進します。
一方、現在あるリマニファクチャー(再製)の仕組みでは、表面上は同等の再製部品であっても、再製業者により機能と耐久性が大きく異なり、再製部品の区別がつかないのが現状です。
本PASの策定を通して、「再生」から”再び製造しなおす”という強い意志を反映させた「再製」という言葉に置き換え、それを認知させていくところから、自動車再製部品に対する概念を変えていきます。

以下、本PASのスポンサーとして策定を推進された株式会社アーネストにお話を伺いました。

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  1. PAS3100策定の背景は?

    弊社にはもともと11つのステップからなる自動車の再製部品手順が存在していました。使用済み自動車から取り外した部品及び修理交換した部品(コア)の準備から完成品の出荷まで細かく分けたこの手順は、一般の再製工程と比較してもかなり厳しい内容ですが、その分品質には自信を持って市場に送り出してきました。
    一方、我々の製品のように厳しいプロセスを経てリマニファクチャー(再製)された製品は残念ながら数多くはありません。たとえば、市場に出回っている一部の再製部品においては、その機能や耐久性の保証なしに、洗浄や再塗装のみといったプロセスが施されるのみです。従って、市場における再製部品の品質は大きな差があり、品質に問題がある再製部品であったとしても、見た目だけではその区別がつきません。
    何も知らず品質に問題のある再製部品を購入する消費者の不利益を防ぎ、製品の故障で発生するする環境負荷を低減するためには、PASの策定が最も効果的だと判断しました。

     
  2. PAS策定のプロセスで苦労された点は?

    一番苦労した点といえば、本PASの策定にあたって使用する業界用語を統一するプロセスです。
    今回、日本国内外から多くのステアリングメンバーや専門家に関わっていただきましたが、同じ業界内でも普段使用する用語が異なり、最初の段階で言葉の壁にぶつかりました。加えて、本プロジェクトのリーダーがBSIUK(英国規格協会)のメンバーであったことから、メールや文書のやり取りの多くが英語で進められたため、言語の問題については二重に苦しみました。言語の違いによる意思疎通の難しさを実感しましたが、時間をかけて丁寧にコミュニケーションをとることを心がけました。PASの発行の目処がつき、用語、言語の苦しみからやっと解き放たれた感じです(笑)。

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    2013年8月15日 PAS 3100規格策定プロジェクト 東京でのキックオフミーティングにおいて:
    左より、株式会社アーネスト 常務取締役 製造部長 望月 康政 様、代表取締役社長 永塚 政義 様、BSI リードプロジェクトマネージャー Bhavisha Patel、株式会社アーネスト 常務取締役 管理部長 灰野 享 様、常勤監査役 大木 尊資 様

     
  3. PAS策定に取り組むことによる効果は?

    PASを策定する効果は、弊社にとってのメリットや効果に限定したものではありません。
    業界全体における効果がまず挙げられます。
    我々は、再製部品の品質標準化の流れを作りたいということに焦点を当て、その想いが先にあってこのPASの策定に取り組み始めましたが、そういった意味では、PAS3100を普及させることで各再製業者の意識を変え、再製部品が自動車補修部品業界において自動車再生部品ではなく、「自動車再製部品」と認識されるようになって、初めて今回の取り組みが報われるということになると思います。
    品質や耐久性の面からみて市場に出るべきではない再製部品が出回るような状況を抑え、健全な市場の成長を促し、環境上の不利益や消費者への不当な出費を防ぐことができて、やっとPAS3100の効果がでたと言えるのではないでしょうか。

     
  4. PAS3100の今後の展開

    我々アーネストにとっては本PASを策定することが最終目標ではありません。このPASを活用して、自動車部品のリマニファクチャー(再製)が適正に行われるように業界に広げていかなければなりません。
    もともと弊社独自のスキルやリマニファクチャー(再製)のプロセスを公開仕様書に落とし込むことで企業機密の一部が外に漏れることに躊躇が無いわけではありませんでした。社内の他のメンバーから反対の声が上がったこともあります。しかしながら、本業界において品質ダウンをして安価な製品が流れる傾向を目の前にして、やはり業界全体の底上げにつながるアクションを率先して起こさなければならないと思ったことが元々のきっかけです。
    本PASにおいては、たまたま我々がスポンサーとなり、技術の標準化に向けてスタートを切った形となりましたが、これからこのPASを利用して業界全体を盛り上げていくのは、同業者の団結にかかっていると思います。
    アーネストとしては、PAS3100が世の中に広まっていくように、日本国内に限らず、北米・欧州やアジア・南米各国にもこの規格の普及をする役目を担い、世界全体のリビルド業界に新しい風を吹かせることができれば、と願っております。

 

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●株式会社アーネストについて●

1993年創業。本社工場は埼玉県吉川市にあり、ベトナムハノイ市に主力工場として位置付けている100%子会社のアーネストベトナムがある。自動車再製部品の製造販売を主に行っている。ISO9001、ISO14001を業界でも早い時期に認証取得し、環境に配慮した低価格な再製部品を提供しているアーネスト社の製品は海外のマーケットで高い評価を受けている。「再製部品の付加価値を高めていくこと」をモットーに、高度循環型社会への貢献を社是に掲げている。

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●PASについて●

PASは“Publicly Available Specification”の略であり、日本語では「公開仕様書」です。「一般に公開されて誰でも使用できる規格」であることを意味します。PASが国際的に広く活用された実績をもとに、BSIが国際規格とすることをISOに提案することで、PAS規格からISO化された規格がこれまでに多く存在します。

PAS規格は、信頼できる公に認知された規格を作成したいという希望があれば、どのような組織(企業、政府機関、団体、NPO、学術機関など)でも作ることが可能です。世界の規格開発活動において多く利用されている“コンセンサス・ベースアプローチ”に基づき、BSI(英国規格協会)が長年の経験と実績に基づいて作り上げた規格開発のプロセスに従って行われています。