BSI：認証取得に至った背景と目的をお聞かせください。

上田氏：病院は専門職の集まりであり、職種や部署が多いために縦割りの組織体になっています。そのため、風通しを良くするための仕掛けが必要ではないかという議論が認証を取得する5，6年前からありました。私は前職でISO取得の事務局をやった経験があったので、同じような問題意識を持っている先生方に声をかけてISOのメリットを話し合う場を設けるなどして、賛同者を増やしていきました。そうやって1年くらいかけて温めていった提案が院長をはじめとする経営層に認められ、認証取得に至りました。

BSI：草の根活動ですね。大変ではなかったですか。

上田氏：それ以前から当院は病院機能評価の認証を取っていたので、毎年審査があるISOの仕組みがプラスされることで、継続的な質の改善につながるということも理解を得やすかった理由だと思います。

BSI：ISOの維持運用における取り組みの特徴を教えてください。

上田氏：内部監査が特徴的だと思います。毎月内部監査を実施し、1年か
けて全部署を回ります。監査を受ける側は年に1回ですが、監査を切り盛りする方は片手間ではできません。それで専従の部署（ISO事務局）ができているわけですが、内部監査員の確保も大変です。

BSI：内部監査員の確保で工夫されていることはありますでしょうか。

上田氏：毎月、内部監査員の養成講座を実施しているのですが、前年度の末に翌年度の養成講座の開催スケジュールを全て出します。看護師さんたちもシフト勤務なので、開催スケジュールさえ早めに分かれば調整して参加してもらえます。

BSI：ISO 9001を維持運用する利点は、何がありますでしょうか。

上田氏：無駄な話し合いが減ったということですね。今までは問題が起こる都度、会議やプロジェクトを開いて決めていたことが、内部監査を通して問題点を指摘されてそれを改善するということを繰り返すことで、色々なことが明確になり、無駄な話し合いの時間が減っていったなと思います。

BSI：それは大切なことですね。時間は有限ですから。

上田氏：現場の人が「これはどうしたらいいのだろう」と分からなくなったことが、まず不適合報告として上がってきて、それを事務局で話し合って明確にして、ということを繰り返すので、分からないということが減りました。ひとつ解決したらまた新しい問題が出てくるので、絶えることはないのですが。それでも、経営層はISOの運用を続けて行くことで楽になるのではないかと思います。逐一指示を出さなくても、有機的に色々な事が動いていくようになっていきますので。

BSI：現場が問題を発見して解決して改善して。ISOの仕組みを上手く活用されていることがよく分かります。

上田氏：QMSの運用を約4年間やってきて、自分たちでQMSをうまく回すためにやらなければならないことがようやく見えてきたかなと感じています。ISO事務局は14名いますが、その14名が規格の本当の意味を理解し始めたことで、色々なことが少しずつ変わろうとしている。自分たちが規格を理解するのに一番大きかったのは5日間コース（※）に参加したことです。そこで初めて規格の本当の意味を理解できたと思います。規格の文言だけを見るとどうしても拒絶反応になりますが、いったん誰かが理解して、自分の組織の文言に置き換えて説明するとすっと入ってくるみたいですね。今までだと「規格でこうなっているからやらなければいけない」という内部監査にもなっていたと思いますが、そうではなく、「規格ではそうなっているし、普通に考えたら計画、実行、検証、改善って当たり前のことでしょ」と。特に臨床現場のスタッフは普段からそれをやっています。

例えば看護師さんだと、医師の指示をもとに自分たちで看護計画を作成し、その計画をもとにした看護ケアを実行して、定期的なカンファレンスで見直しを行い、問題点があれば改善をかけた看護計画を立て直す。そういう普段からやっていることに置き換えて説明すると、すんなりと意味が入ってくるようで、内部監査も随分、前向きに捉えてもらえるようになりました。最初のころの内部監査は、各部署60分だったのが、話が盛り上がるので今年度から90分に増やしました。

※ BSIが開催する「ISO 9001:2015 IRCA認定 品質マネジメントシステム審査員/主任審査員コース」

BSI：BSIの審査についてご感想を伺えますか。

上田氏：専門性のある審査員に来ていただけるので、自分たちでは見逃しているポイントを指摘していただけます。特に私が受けている審査で一番気づきが多いと感じるのは法令規制要求事項です。病院は様々な法令に縛られています。自分たちは診療報酬については詳しいですが、それ以外の労働安全衛生や消防法など、我々が疎くなりがちな分野についてもしっかり見ていただけるのはありがたいです。

BSI：今後の展開や目標についてお聞かせください。

上田氏：4年間くらい運用してきて、次のステップに行く時期に来ているかなと感じています。中だるみが起こりやすい時期でもあります。そこで、同じ済生会の中でISO 9001 を取っている病院同士で、相互監査を実施する計画を進めています。お互いに刺激になりますし、内部監査員にとっても他の病院を見に行くということは良いモチベーションになると考えています。

「もっと病院をよくしたい」という現場の皆様の思いが集約されて認証取得に至り、その後、約4年間の運用を経て独自のQMSを進化させてこられた済生会中津病院様の活気と勢いが伝わってくるようなインタビューでした。相互監査、二者監査という新しいチャレンジに向かわれている済生会中津病院様のQMSが、今後さらにどのような進化を遂げられるのか非常に楽しみです。